
僕たちが湘南の海に感じるもの
「自分は俳優である以前にサーファーなんだと思う」と語るほどサーフィンをこよなく愛し、
忙しい仕事の合間をぬっては湘南の海に通っている俳優の坂口憲二さん。
そして鎌倉を拠点に湘南の海を通してひとつの文化を発信し続けてきた写真家の横山泰介氏。
お二人の接点は、サーフィンを通してはもちろん、湘南という場所によっても強く結ばれています。
この場所に対する思い入れ、海に対する想い、湘南の海が育てたもの…などについて、
たっぷりと、自由奔放に語っていただきました。
素の海人としての二人のトーク・セッションには、自然を知る者のみぞ知りうる、
未来に向けてのいろんな知恵が詰まっているのではないでしょうか。
「湘南に住んでいる人は、“ザ・デイ”を静かに待っている。
ある意味、湘南の人は“待つ”タイプなんだよね。」
湘南は坂口さんにとってどういう場所ですか?
坂口憲二さん(以下、坂口):僕は生まれが東京だから地元ではないのですが、サーフィンを始めたのも湘南だった。中学生の時に初めてサーフボード持って来たのは鵠沼だったんです。やっぱり湘南はサーフィンでいうと日本の中心だし、文化があるし。
今でも波があったら仕事の合間を縫って湘南にもサーフィンに来られていますが、どうして湘南なのですか?
坂口:波ももちろんだけれども、泰介さんを始め“人”の魅力も大きな理由です。やっぱりサーフィンをやっている人にとっては、湘南は最先端というか、逃したくない感じなんですよね。
どうしてそういうカルチャーが湘南に育ったのでしょうか?
坂口:電車があるというのも大きいですよね。
横山泰介さん(以下、横山):都会から1時間弱で来れるというのも、強みだよね。
坂口:そうですね、東京のサーファーにとって湘南はホームみたいなものだし。
横山:波だけで考えると千葉の方がコンスタントにあるわけだけれども、こっちは文化的な面が発展していったんだろうね。例えば、サーフボードのシェイプを勉強したりする人たちが来て、そこにファクトリーができて、ショップができて…。
そういったサーフィンの産業はなぜ千葉じゃなくて、湘南だったのだと思いますか?
横山:僕が思うには、米軍のベースキャンプとかの影響もあったのではと。サーフィンの発祥も湘南でしょ。アメリカ人が鎌倉でサーフィンをしているのを見て、日本人も始めたわけで。それで見よう見まねでサーフボードのシェイプをする人たちが出てきて…。まさに僕たちの時代の話しで、日本全国にサーファーはいたけれども、サーフボードを作るにはまずは工場に来なければ話しにならないから、みんな湘南にやってきた。地方から湘南に来て学んで、それをまた地元に持ち帰って工場を作るという流れで、九州、四国、大阪へと、日本全国で発展させていったんだと思う。
坂口:僕自身の場合その逆で、千葉で練習して湘南で本番という感じですが…(笑)。

湘南が本番ですか?
坂口:鎌倉のリーフのポイントはスペシャルなポイントがいっぱいあるから。千葉にも波はたくさんあるけれども、リーフのポイントはそんなに多くない。ビーチブレイクがメイン。だから、ビーチで練習して波が大きくなったら鎌倉に来てリーフで腕試しという感じです。それが僕にとっては理想なんだけれど、湘南に住んでいる人にとってみれば、普段は波がないという状況なんですよね。僕はその“ザ・デイ”を静かに待つという環境にまだ自分をおけないんですよね。どうしても普段から波があるところに行きたくなってしまう。そわそわしちゃうんです(笑)。そういう意味では、湘南はのんびりな人が多いなって思います。
横山:そうだね、ある意味、湘南の人は“待つ”タイプなんだよね。
坂口:その通りだと思います。千葉にいると、千葉の人たちは一緒にいるとアグレッシブな感じがしますが、湘南のサーファーはやっぱり穏やかな印象。でも「波が来たときにはチャージするぜ」という情熱がある人が多いと思います。
横山:湘南のサーファーにとっては、その“待ち”時間をどう過ごすのかというのが課題だね。
坂口:それが湘南の強みでもあると思います。千葉に住んでいると(自身が家を借りている)頭使わないですから。だって波があるし、ただサーフィンしていれば楽しい、という感じになってしまいますからね。その点では、湘南では波がないときに何をするかが、すごく大事になってくるんでしょうね。
「今の湘南のサーフカルチャーを創りだしてきた人たちの多くは、
外国に行って色々学んできた人たち。」
湘南の一般サーファーたちは、自分たちのホームからあまり出ないですよね。
横山:そうだね、それは現代の日本全国のサーファーに言えることだけれども、僕たちが若かった頃は、波を探しに行くのが趣味だった。どこでも実際に行ってみて、波乗りできる、できないって判断する世界だったからね。
坂口:今は携帯で波情報がわかってしまいますからね。
横山:だから「こんなんじゃ、やめようぜ」って簡単にあきらめる時代になっている。波に対して貪欲じゃなくなっているよね。「行けば(波が)あるでしょ」が普通になってしまっているけれども、前はそうじゃなかった。波ないから、じゃあ何しようかってことになっていたわけ。憲二くんが日本全国を旅していた『海から見た、ニッポン』では、波がなくても何か探して旅を楽しんでいた。それがよかったんじゃないの?
坂口:サーファーはサーフィンしているだけじゃないですから。意外とその側面みたいなのがサーフィンにもつながりますしね。
横山:人との出会いも大切だしね。
坂口:そうですね。湘南にはそういう側面がありますよね。個性的な人も多いし。そして、湘南の海は全員にウェルカムだと思う。初心者が多いのもそういった湘南のスタンスがあるからだと思う。開放的ですよね。それに、あの134号はやっぱりいい!
横山:そうだね、やっぱりあれだね!
坂口:自分の母親が『珊瑚礁』(鎌倉・七里ケ浜にあるカレー専門レストラン)が大好きで、ガキの頃によくカレーを食べに連れてきてもらっていたんだけれども、そのときに初めて七里ケ浜でサーファーというものを見たんです。
横山:そうだったんだ。じゃ、やっぱり子供の頃からサーフィンとは縁があったんじゃん。もしかしたら、俺も海で見られてたかもしれないね(笑)。
坂口:幼稚園か小学生くらいのときです。夏になると毎年来ていました。湘南の、サーフィンと人間と文化がワンセットになっている感じは、とってもいいと思います。今はサーフィンをやっているから、もう自分にとっては当たり前の光景になっていますが、当時134号沿いにサーフショップがずらっと並んでいるのを見たときにはカッコいいなって思ってました。今で言ったらカリフォルニアのハンティントンに来ちゃったみたいな、これぞサーフタウンっていうインパクトがありますよね。ショップの前にいる人たちはみんな真っ黒で髪が長くて、スケボーとかやっちゃって…。まさか、自分もそうなるとは思ってなかったけど(笑)。
横山:でも、湘南の街が今の感じになってきたのは、ここ20年くらいのこと。昔はもっと限られていたからね。
坂口:日本各地どんな場所でも、湘南のようにサーフィンをきっかけに街を栄えさせるということもできるんじゃないかと思います。
例えば大磯が別荘地として栄えていたような歴史的な背景を考えると、文化が生まれる場所というのは、いろんな意味での“余裕”があるところなのでしょうか?
横山:外来の文化の影響も大きい。
そうすると、どうしても外国に実際に行って見てみたいという気持ちが起こるよね。ハワイやカリフォルニアに行ってみたいと思っても、昔はそれなりの金銭的な余裕がないと行けない。そして、そういう人たちが行って帰ってきて文化を広めて行ったりしてきたんだよね。今の湘南のサーフカルチャーを創りだしてきた人たちの多くは、外国に行っていろいろ学んで来た人たち。日本はやはり島国だから。
坂口:きっとその頃の湘南には東京にないものがあったんでしょうね。第一次サーフィンブームの頃は、みんながこぞって湘南に来て、カリフォルニアやハワイを湘南に感じていたわけだろうし。それが根付いているんだろうな、やっぱり。湘南をそこまでにしたのは海。海沿いに栄えているということは、東京と違って、いい意味で“一方通行”なんだと思う。東京だと、いろんな方向に行けるけれども、海沿いの場合は限られているから色が濃くなるのかもしれませんね。
「湘南を“東京”にする必要はない。
東京にあるものが必要だったら東京に行けばいいじゃん。」
東京にいるときには味わえない湘南の魅力ってどんなところでしょうか?
坂口:まず、国道一号の渋滞と…(笑)。最近は横横(自動車道)を使って来ているから、朝比奈を降りて鎌倉霊園のあたりを超えているときとか、山に囲まれたときに、湘南に来たという感じがしますね。
横山:狩場から湘南に近づくにつれて、だんだん緑が増えてくるあの感じがいいよね。
坂口:鎌倉は山に囲まれていて、昔は切り通しがあってなかなか通れなかったんでしょ。そういう昔の時代の片鱗をいろんなところで今も感じる。
湘南は、山と海が近いのもいいですよね?
横山:うん、それにつきるよね。理想はね。鎌倉はそうだよね。
坂口:なんせ、幕府があったところですからね。お寺とかもいいし。

ひとくちに湘南と言っても、葉山・逗子・鎌倉エリアと鵠沼、辻堂、茅ヶ崎、大磯…と、それぞれのエリアによってまったく雰囲気が違いますよね。人の感じも違う。それはなぜなのでしょうか?
横山:日本全国そうだけれども、やっぱり湘南ほど限られたエリアでこんなにも色が違うのも珍しいよね。
自分たちが住んでいる土地にみんなが誇りを持っているからなのでしょうか?
横山:昔の人って、みんなそうだったんだよね。そこに長い間住んでいると、その土地を大事にしようする。今は、そういう気持ちが希薄になってしまったのかもしれない。だから、つまらない町づくりになってしまっている。別に湘南を「東京」にする必要はないのに、みんな東京の真似をするようになってしまった。僕はむしろ、もっと保守的でいいと思っている。だって湘南なんて東京に近いんだから、東京にあるものが必要だったら東京に行けばいいだけの話しじゃん
坂口:東京を湘南に持ってくる必要はないんですよね。
横山:それがみんなそうしたがっている。少なくとも、僕の目には今の湘南はそういう風に見えるよ。建物ひとつとってもそうじゃない。それは文化の後退だよ。
坂口:海に消波ブロック入れている人たちと一緒ですね。
横山:町づくりというのは、住む人がつくるんだから、みんな同じ方向を向いていないと統一性もなくなる。いきなり派手な感じの色使いの建物ができても、調和しないよね。建物の高さもバラバラじゃない。僕はもうこれくらいの歳になったから、もう言っちゃってもいいんじゃないですかって思うから言っちゃいますけれども、昔の鎌倉のよさなんて、全然ない。昔はうるさい人がいっぱいいたけれども、今はうるさい人が亡くなっていなくなっちゃったから。うちの親父(風刺漫画家の横山泰三氏)とか仲間は滅茶苦茶うるさかったからね。
坂口:鎌倉なんか関所を復活させちゃった方がいい(笑)。
横山:鎌倉駅前の混雑も、ひどいよね。
坂口:あそこはホントやばいですよね。
横山:日曜日にお客さん迎えに行って帰ろうとしたら、六地蔵からの通り、渋滞で出られないんだから。
坂口:いかに日本にそういう場所がないってこと。そういう場所がいっぱいあったら、みんな分散するわけだから。鎌倉はある意味独り勝ち。でもそれによってやっぱり地元の人は逆に損してしまうようなところがある。よっぽど魅力的だってことなんですよね。
「町づくりというのは、住む人がつくるものだから、
みんな同じ方向を向いていないと統一性もなくなる。」
横山:だったらもっと魅力的にすればいいわけじゃない? 駅に入った瞬間から、もう看板一個もありません、と。そして全部グリーンで覆われていて、松の木より高いものは要りませんとか。そのくらいにした方がいい。でないと限りなく都会になっていって、東京と変わらなくなる。
坂口:そしたら逆に魅力がなくなる。
横山:はっきり言って、住んでいる人の意識が低いということです。
坂口:海だけあればいいというわけじゃないんですよね。そうじゃないところで、鎌倉とか湘南の歴史があるから。
横山:そういう意味じゃ奈良や京都のほうが努力をしている。この前、熊本に行って来たんだけれど、お城の周りは駐車禁止のポールに到るまでちゃんとグリーンとか茶色で作っていて、白じゃないんだ。そういう努力って一見わからないけれど、よく見ると環境に配慮してるなと思う。電信柱のコンクリートむきだしとかさ、海から見るとよくわかるよね。
坂口:まさしく!
横山:俺たち海にいる時間が長いから、変わっていくのがわかる。山を崩しちゃ、そこらじゅうに家を建てていって…。岸から見るとわからないけど、サーファーがそういう視点で世の中変えてゆかないとダメなのかもしれないね。なんだか過激な発言に聞こえるかもしれないけれども…(笑)。

今、そうやって何かを思って変えていこうと思うことが、今後何十年かの間にずいぶん大きな変化になっていくわけでしょうね。
横山:ビーチクリーンひとつとってみても、自然発生的なわけでしょ。俺たちの時代よりたぶん子供たちの方が世の中を変えていく力がある。子供ってそういうものだから…。でも、湘南にきちんとしたビーチカルチャーが根付くのはあと3代くらいかかるね。本当はあと30、40年以上かかると思ってる。ハワイとか外国へ行くと海の文化の違いを感じるからね。向こうでは海の生活は当たり前。
坂口:そうですね。全然違いますよね。教育もしっかりされていますしね。まずシャワーつけるところから始めますか。無料シャワー!
横山:海で遊べるということは実はすごく大切なことなんだよ。
今は学校の教育で、子供だけでは海に行っちゃいけないとか言われますからね。
坂口:そうなんだ。馬鹿げた話しだな。
横山:自然に触れ合うチャンスをどんどん狭めてるよね。
坂口:湘南に住んでいてそれはないだろうって言いたくなっちゃう(笑)。
「いつか湘南で、毎日目の前で波チェックできるような家に住んで、
波があったらサーフィンするという生活をしたいと思う。」
子供にとっては、もっと危険なことが他にいっぱいあるはずなのに…。泰介さんは湘南で今も昔も変わらず海と一緒に遊んでいらっしゃいますが、昔と比べるとどうですか?
横山:今でも基本的に海さえあれば普通に遊んじゃうよ(笑)。俺たちは自分で好きなことを見つけるのは得意だから。でも、その遊びの場がどんどんなくなっていくのは悲しいよ。たとえば消波ブロックを入れたり護岸工事したり、そういうことは基本的な問題です。俺らの子供の頃の時代を語っている場合ではなく、僕らの子供、またその子供たちが遊ぶ時にどうなってるのかと考える。昔はよかったという風景が、俺たちの時代で終わっちゃうのかと思うと寂しい。日本もテクノロジーがすごいから、そういうことを考えてなんとかできればなと思う。
テクノロジーは勝手に進化しちゃいますけど、守らなきゃいけないものってよっぽど意識していないとどんどん変わっていきますよね。
横山:東北の取材でカキの産地に行った時の話だけど、カキが一度ダメになって、森からのミネラルが川へ流れるから一回山をきれいにしましょうと、若い人たちが森をきれいにした。そしたら、生き返ったんだよ。
坂口:復活したんですか?
横山:そう。それは大昔の人がやっていたことなんだけど、今また若い漁師さんたちが取り組み始めた。同じようなことを日本全国でできればいいなと思う。わかってる人はいっぱいいるよ。
坂口:人間は欲の塊だから、新しいものを作る方向ばかりにいってしまうけれど、今あるものを止めて昔に戻ることも大切だと思う。自然はちゃんと還ってくるから。
横山:とはいえ、生活を100%自然に変えるなんてできないわけでしょ。携帯使ったり、どこかで文明の恩恵を受けているから。完璧ですと言い切れないところに世の中はある。徹底している人を見ると頭が下がるけれど、何にも知らないよりいいと思う。意識があるかないかで全然違うから。
坂口:人間はなかなか気付かないものですからね。生きていること自体、ゴミを出すということ。それをみんながどう思うかということで。俺ら東京の連中からすると湘南は憧れの場所で、「湘南住みてえ!」ってみんな思っている。それで実際に来てゴミだらけだったらちょっとショックでしょ。モデル地区じゃないけれど、湘南の人たちにはそういう責任もあると思う。いつか湘南で、毎日目の前で波チェックできるような家に住んで、波があったらサーフィンするという生活をしたいと思う。この湘南という場所をこれからも大切にしていきたいな。


















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